対照的な2つの判例

今回は、「(元従業員の)自殺は会社の安全配慮義務違反によるもの」
として遺族が会社に損害賠償を求めた事案を基に考察します。

会社の対策(「ハラスメント研修を行っていないこと」「メンタルヘルス研修を実施していたこと」)
が司法判断に影響していることがわかります

① Sほか事件(東京地判平26・11・4)
上司のいじめや暴行で自殺、代表取締役の責任は?
判決:パワハラ対策を怠り賠償認容
⇒飲食店長が自殺したのは長時間労働や上司のいじめ・暴行が原因として、
遺族が上司や代表取締役らに損害賠償を求めた。
東京地裁は自殺との相当因果関係を認めたうえで、
取締役には会社が安全配慮義務を遵守する体制を整えるべき注意義務があるが、
長時間労働などを放置し、パワハラの指導や研修の対策も採らなかったとして、
会社法に基づく損害賠償責任を認容、約5700万円の支払いを命じた。

② M事件(高松高判平21・4・23) 
不正経理の叱責を自殺原因とした原審判断は?
判決:指導は正当な業務の範囲内
⇒不正経理を行った道路工事会社の営業所長に対する上司の指導・叱責で、
うつ病を発症し自殺したとした一審を不服として、会社らが控訴した。
高松高裁は、不正経理の解消は容易な目標でなく、強い叱責の存在は認めたが、
上司の正当な業務の範囲内で不法行為に当たらないと判示。
職場のメンタルヘルスなどについて管理者研修が実施され、
Aを含む管理者が受講していることは原判決認定のとおりであって、
メンタルヘルス対策がなんら取られていないということはできないなどとして
自殺との相当因果関係はなく、予見可能性もないとして安全配慮義務違反を否定した。

今回は、あえて「自殺」というインパクトの大きい事件を取り上げましたが
被害の範囲を「精神的苦痛」にまで広げてみると、
会社の対策が講じられていなかったことを理由に、
司法の場、および労働局等行政機関の支援制度(「あっせん」「調停」)において
会社が従業員からの損害賠償請求に応じた事案はいくらでもあります。
「ハラスメント対策」というと、従業員寄りの視点であるとして、
後向きな姿勢を見せる労務担当者も少なくありません。
しかしながらハラスメント各法により、事業主に措置義務が課されたことから
使用者責任は明確に規定されています。
できる範囲内で少しずつでも、対策は進めていくことが望ましいでしょう。

当社では、公認心理師、ハラスメント防止コンサルタント等が
相談窓口の相談員としてまた研修講師として、適正な就業環境の構築に寄与しています

どうぞお気軽にお問合せください。