香川照之氏 ハラスメント問題を考える
「週刊新潮」が報じた、俳優の香川照之氏による女性への性加害。
報道を受け、トヨタ自動車は、香川氏が出演するテレビCMの放送を見合わせ。
さらに、「THE TIME,」(TBS)は香川氏の降板を発表しました。
行為の真相は定かではありませんが、報道が事実であると仮定するならば、
職場でハラスメント事案が発生した際、事業主が留意すべきポイントを考える
貴重な機会になったようにも思います。
今回は、法的側面からこの問題を解説させていただきます。
「銀座のクラブを訪れた香川氏は、接客を担当したホステスの下着を外す、
胸部を触るなどの性加害を行った。被害女性は、
香川氏の暴走を止められなかったという理由で、クラブのママを東京地裁に訴え、
その後、損害賠償請求訴訟を取り下げた」とされています。
本件のポイントは、香川氏ではなく「クラブのママ」を訴えたという点です。
皆さまもご存知の通り、職場におけるハラスメント対策は、事業主の措置義務として
以下各法に規定されています。
・セクハラ・・・男女雇用機会均等法11条
・マタハラ・・・男女雇用機会均等法11条
・ケアハラ・・・育児介護休業法25条
・パワハラ・・・労働施策総合推進法30条
また、これら各条文を根拠として、雇用管理上講ずべき具体的な内容は
厚労省指針にて示されています。
社内で発生した事案について、指針で示される内容を講ずべきことは
言うまでもありませんが、被害者及び行為者が社外の人間だった場合、
事業主の法的な責任はどうなるのでしょうか。
◆セクハラの場合
⇒男女雇用機会均等法11条-3に、自社の労働者等が他社の労働者に
セクシュアルハラスメントを行った場合の協力対応が「努力義務」
として定められています。
※『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました』
P7~P9をご参照ください。
◆パワハラの場合
⇒厚労省指針「事業主が他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや
顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組」に、事業主は、
取引先等の他の事業主が雇用する労働者又は他の事業主からのパワーハラスメントや
顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、暴言等)により、
その雇用する労働者が就業環境を害されることのないよう、
雇用管理上の配慮として、相談体制を整備することが望ましい
とされています。
※厚労省『職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました』
P33をご参照ください
それぞれ、「措置義務」と言えないまでも「努力義務」および「望ましい取組」として
明文化されているのです。
また、厚労省は、いわゆる「パワハラ指針」(令2・1・15厚労省告示5号)のなかで
カスハラについても触れ、顧客と接することが多い企業へのヒアリングを実施。
対策のためのマニュアル(令4・2・25)を公表しています。
※厚労省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』をご参照ください。
「男女雇用機会均等法」及び「労働施策総合推進法」は行政規範です。
損害賠償請求などの民事責任については民法の規定によるため、
行政規範に係る違反が直ちに民事上の不法行為を構成するわけではありませんが、
今回「クラブのママ=事業主」を相手に訴訟を提起した背景には
これら行政規範が影響していると考えます。
実際に、民事責任を判断する上で男女雇用機会均等法が考慮されている事件もあります。
(下関セクハラ事件(広島高裁平成16.9.2))
ハラスメントに対する社会的な関心が高まる中、今後は民事訴訟においても
行政規範の遵守状況の影響は相当程度強まるでしょう。
今回の事案では被害者女性が訴訟を取り下げたため
司法判断はされていませんが、それでも香川氏に対する社会的な制裁は
避けられない状況となっています。
自社従業員は、被害者にもまた加害者にもなり得ることを踏まえ、
「法律は事業主に何を求めているのか」を把握しながら
適切な対策を講じていくことが大切です。
当社では、経験豊富な相談員と共にハラスメント体制の強化を支援しています。
お困りごとがあれば、いつでもお気軽にお問合せください。